片手に炊飯ジャー
「何か食べるモノありませんか?」
僕は寝床の確保に続き今度は食料確保に走った。正直本当にスグにでも何か食べ物を口に入れないとやばい感じだった。
「あーでもウチにはお土産用の干物しかないよ…」
それでも魚の干物でもあれば…と思い受付にあったお土産コーナーを見てみると並んでいるのは『海藻』だらけ…正直あまり海藻が得意ではない僕にはきつかった。でもあまりの空腹に…
「それでもいいです」
『海藻なんかどんだけ食べたら腹が満たされるんだよ…でもしゃーない!水で戻して少しでも空腹を満たそう…』と覚悟を決めたら…
「あっ…ちょっと下に行った所に『お店屋さん』あるよ!そこでパンとか買えるんじゃないかなぁ?」
「えっ本当ですか?あ…じゃあ…ちょっと行ってみまーす」
『ナイス管理人っ!』言われた通りに行ってみると、そこは『石廊崎灯台』入口手前のお土産街だった。
「血になるもの…血になるもの…」
僕はとにかく『血となり肉となる』モノを探した。すると一軒のお土産屋さんの店内にパンどころかなんと『カツ丼900円』の張り紙を発見!『ぴゃーっ!カツ丼っ!まさかここで出会えるとは』僕は完全に『カツ丼』にロックオンされ導かれように店の中へ入った。
「カツ丼をひとつ」
店内には『おばちゃん』とその『娘』らしき少女がいた。僕の注文を聞いたおばちゃんは、少し慌てて
「えっ?カツ丼…出来るかなぁ…『花ちゃん』(仮名)!兄さん呼んで来て…」
と少女に伝えた時、ちょうど『兄さん』らしき人が登場した。
「カツ丼だって…出来る?」
「出来るよ…あっ!ご飯がないなぁ…」
それだけは勘弁してくれ…ていうかこう言う所で『ご飯が無い』ってどうなのよ…仕方無く『うどん』でも頼もうとしたら…兄さんが
「あっ!あそこからさぁ貰って来てよ…」
『…ん?『あそこ』ってどこ?…』と考えていると『炊飯ジャー』片手に外に走り出す『おばちゃん』の姿が僕の目に飛び込んで来た。『…おばちゃんお願い!僕にカツ丼を食べさせて!…』もう『おばちゃん』を信じるしかなかった…
花ちゃん(仮名)と麦茶
おばちゃんが外へ出て行くと今度は『花ちゃん』(仮名)が僕に麦茶を用意してくれようとしていた。冷蔵庫から2リットルぐらい入っているであろう『麦茶ポット』をもってコップに注ごうとするも明らかに重そう。『大丈夫かいな?』と少し心配しながら見ていると案の定『ジョジョジョジョー』みるみるコップは麦茶で埋まり、遂には少し溢れてしまった。ありゃりゃ…こぼれた事を僕に見られていたかが心配だったのか『花ちゃん』が僕の方を見た…もちろん僕は一部始終を見ている…
「大丈夫だよー」
そう声をかけると今度はそれをそのままお盆にのせ、僕の座っているテーブルまでゆっくりと運んできた。運んでくる最中もやはりちょいちょいこぼれていたが、その様子が本当に可愛いらしかった。
「麦茶です…どーぞ…」
「はい、ありがとう」
テーブルに麦茶を置くとスグに『花ちゃん』は自分がいた椅子に戻り任天堂DSを始めた。でも…申し訳ない事に、その時僕はめちゃめちゃ喉が乾いており『ほぼ一気』にその麦茶を飲み干してしまった…そして…
「ねぇねぇ…もう一杯麦茶貰っていい?」
と『花ちゃん』に声をかけると『花ちゃん』は無言でうなずき、僕のグラスをもってまた麦茶を注いでくれた。今度は一杯目分がなくなり麦茶ポットが軽くなったのか上手に注げた。そしてまた僕の顔をみて笑顔を見せる。
「麦茶です…どーぞ…」
「はい、ありがとう」
一杯目と全く同じ言葉を交わす。なんとも微笑ましい出来事だった…いやぁこう言う麦茶は、また格別にうめぇなぁ~!
磯の味
『花ちゃん麦茶』の美味しさに浸っていると、おばちゃんが戻ってきた。だだその右手には炊飯ジャーは無くサランラップを被せた『丼ぶり』があった。『なんとかカツ丼は食えそうだな…』と『ホッ』としながら麦茶を飲んでいると、今度はどこからか『おばあちゃん』登場。
「いらっしゃい…お茶でも注ぎましょかね…」
と言って冷蔵庫から『麦茶ポット』を取り出し、僕の座っているテーブルに持って来た。
「あっ…すいません。ありがとうございます」
僕は注いで貰えるモノと思いコップを差し出すと…おばあちゃんは持ってきた『麦茶ポット』をどーんっ!とテーブルの上に置いた。
「好きなだけ飲んでいいよ」
花ちゃん麦茶を飲んでも、まだまだ喉が乾いていた僕は…
「下手したら全部飲んじゃいますよー!」
なんて言ってみると
「全部飲んでも全然いいよ」
となんともカッコイイ!
「えーっ!じゃあお言葉に甘えて…」
とコップに残っていた麦茶を一気に飲み、新たにもう一杯麦茶を注いだ。
「お待ちどうさまー」
すると間もなく兄さんが『カツ丼』を運んで来て…僕はその『カツ丼』に驚かされる。その量たるや山盛り…いやっ!『超』山盛りっ!『うわぁ凄げぇ』しかも良く見れば『カツ丼』の上に『青海苔』と『岩海苔』がかかっている。実際に食べて見ても…美味い…でも…やっぱり『磯の味』。…これが『南伊豆』のカツ丼かぁ…こう言うの初めてだなぁ…そして今度はカツ丼とセットの『海藻のお吸い物』に挑戦してみる…
「んっ!?」
こっちは残念ながら僕の苦手な味だった。…あぁでも…もしキャンプ場の受け付けで『海藻水戻し』を良しとしてたら…こうだったんだろうなぁ…僕は『カツ丼』食べられた事に本当に感謝をした…ありがとう…『磯味カツ丼』…
最高のお土産屋さん
『磯味カツ丼』を食べていると調理場から『おばちゃん』が出て来て僕に話しかけてきた。
「あれですか?自転車か何かで周ってるんですか?」
「はい!自転車で伊豆半島一周してるんですよ」
「ほぉ~因みにどちらから?」
「あっ東京です」
そして僕はここまでのルートを話した。
「花ちゃん!お兄さん東京から自転車で来たんだって!凄いねぇ!花ちゃん自転車で東京まで行ける?」
花ちゃんは無言で首を横に振っていた。そしておばちゃんは続けた…
「じゃああれですか?競輪選手が乗っているような自転車で?ピッチピチのヤツはいて…」
「はぁい…それで…」
おばちゃんは横を向き、少し腰をかがめ、自転車に乗るように前傾姿勢を取りながら、
「こう言うハンドルで…こう言う…」
とロードバイクのドロップハンドルの形を手で表現し始める…
「そーです!そーですぅ!」
僕は自分がどうやって旅をしているかわかって貰えた気がして嬉しくなってきた…
「それでこうやって漕いでね…」
と今度はさっきまでハンドルの形を表現していた腕を、足でペダルを漕ぐように回し始めた…あっ…おばちゃん手が回ってる…もちろん足を回さずに手を回してしまう気持ちも凄く良くわかる…でも…その姿がおばちゃんには大変申し訳ないのだけれど『小動物が穴を掘る』姿に似ていて不覚にも笑ってしまった。
「アハッ!そーですっ!そーですっ!まさにそんな感じですっ!」
本当に最高のお土産屋さんでした。カツ丼も美味しかったけど、やっぱり『人』が素晴らしい!食べてる時に『山盛り』の事も聞いたのですが、兄さん曰く僕がスポーツをやっている人に見えたから、いつもより多めにしてくれたとの事。お涙ちょちょ切れモンでした。そんな気持ちに少しでもお礼がしたいと思い『¥450の海老煎餅』を買ったのですが、そこでもおばあちゃんが『¥50』まけてくれ、また『感謝の気持ち』で一杯になりました。
本当に有り難うございました。